「ノルウェイの森」だったか何だったか。
村上春樹作品で、読むべき本とは何かというテーマで盛り上がる場面があり、「死んで30年経っていない作者の小説は読む必要はない。歴史の評価・検証を通過してないからだ。よって現代作家なんぞを読むのは時間の無駄だ」と自論をぶち上げる登場人物がいたように思う。
なんでそんな古びた話を思い出したかというと、夫婦で「現代漫画やラノベを読むぐらいなら往年の児童文学を読め。漫画やラノベのエッセンスは児童文学に詰まっている」などと訴えるツイートが話題になったから。
あー、なるほどな。公文式な。
— 九月の『読む』ラジオ (@kugatsu_readio) 2024年8月26日
あれ、着実に学力はつくが基礎問題のドリルをめっちゃ解く形式でさ。数ある学習法の中でもコツコツ派閥の代表なのよ。もちろん必要だけど、楽しさとロマンからは距離がある。
学ぶことの楽しさとロマン、俺は何で知ったかな。うーん、たぶん、たぶん読書な気がする。… pic.twitter.com/prqZVoDEa8
子育てしていると、子どもには本をたくさん読んでほしいと願う。国語のテストの記述問題で引っかかているのを見ると、読解力が養われているのか気になる。
しかし、現実は正反対。小学生に入り、漫画やSwitch、スマホやタブレットと出会うと、本を読む機会がどうしても減ってしまう。
そんな時に冒頭のツイートを見つけたってわけだ。
「これしかない!」と思い立った夫婦は子どもを連れて書店に向かった。
岩波少年文庫など子ども向けにしてもお堅い、文字が多い正統派ばかりなのかと思っていたが、「四つ子ぐらし」や「戦国ベースボール 信長の野球」などと同じ書棚に「注文の多い料理店」や「星の王子さま」が並んでいるのが新鮮だ。
表紙も挿し絵も現代風。大正・昭和の(純文学風?)児童文学が、平成・令和の(ラノベ風?)児童文学に紛れ込んでいると言えば伝わるだろうか。
「これなら、『戦国ベースボール』を読んでいると思わせて、『星の王子さま』を読ませることができるってもんだよ。歴史の検証を受けた名作のエッセンスをダイレクトに浴びれるってもんだよ。これで読解力ドバドバさ」
夫婦はハイタッチせんばかりの熱意を込めて目を見合わせた。(流石に書店ではハイタッチせんよ)
たくさんの出版社が往年の名作を令和風味で刊行する中で、夫婦の心を捉えたのは片仮名が多いシリーズ。表紙も挿し絵もポップ過ぎず、「往年」テイストを保ってくれている。
ターゲットは決まった。
だが、ここでターゲットを手に取りレジに向かうと見せかけて、向かわないのが節約家族だ。
「ネットで中古があるか探してみようか」
いいものを少しでも安く。そして速く。この「速く」を後回しにできるのが節約家族の強みだ。
書店を後した節約夫婦は晩ご飯の買い物もそこそこに家路を急いだ。
家に着くと夫が早速検索。
「片仮名、片仮名、と。何て名前のシリーズだったけ?ミライガナンタラカンタラ、みたい感じだったと思うんだけど。ミンナデミライヲツクロウブンコ、みたいな」
シリーズ名をド忘れした夫が尋ねた。
妻は「私も覚えてないよ。でも、そんな名前ではなかったのでは?いくらなんでも冗長過ぎるよ。そうだね、Amazonで調べてみたら?」
妻が答えるや否や、夫は検索再開。
正解は「ポプラキミノベル」だった。
中古サイトを複数回ったが、在庫は切れていた。
節約家族の夏は終わらない。