今回は妻の独白です。
「MMRマガジンミステリー調査班」は好きですが、ポルターガイスト現象やラップ現象に惹かれる方ではありません。
例えば夜中、ひとりで起きていて、異音が聞こえても、「気圧に変化でもあったかな」「木造だから木の音でもするのかな」などと捉え、やり過ごすタイプです。
しかし、あの日の朝は違ってました。
その日は夫も子どももいつもより早く家を出てました。
寝不足が続き、頭痛もあったため、2階の寝室で横になりました。
いくらか眠ってしまったかもしれません。
「あれ〜、コヤナギさ〜ん?」
1階から人を呼ぶような物音が聞こえるではありませんか。「ガチャ」とドアを開けるような音も聞こえます。
あれ、鍵締めてなかったかな。
夫と子どもを見送った時のことを思い出そうとしましたが、うまく記憶が戻りません。
頭痛はおさまらず、夢か現実か定かでない状態。
脳が普段通り働いていないのは自覚しつつ、脳裏に鮮明に浮かんだのは光市母子殺害事件でした。
あ、あたし、殺されるかもしんない。
でも、頭ぼーっとしてるし、勘違いかもしんない。
確かめるしかないか。
あいにく、寝室には武器になるものはないため、取り敢えず階段を降りるしかありませんでした。
意を決して、物音が立たないように、そっと、そっと。
幸か不幸か、階段が軋む音は聞こえません。
今日は木が軋みやすい気象条件ではないのかな。
だとすれば、さっきの物音はいよいよ一体全体何なのだろう。
そんなことを考えていると、1階に着きました。
だ、だれか、いますか〜?
なんで自分の家で不審者に丁寧語を使わないといけないんだ。これから殺人を犯すかもしれないやつに。
そんなことを考えながら反応を伺いましたが、何も聞こえません。
廊下、居間、台所、そして玄関。抜き足差し足忍び足で一巡しましたが、異常は見当たりませんでした。
玄関のドアを施錠し、自分に言い聞かせるように深呼吸をしました。
勘違いでよかった。
そもそも、私はコヤナギさんじゃないし。
でも、あの音は何なんだったのだろう。
疑問は解けないまま、夜になりました。
夫が帰って来ました。
今朝の出来事を話しました。
夫の回答はこうでした。
「うーん、それは、前に住んでいた人の霊かもしれないねえ。ほら、うちは中古住宅だろ。内見の時、仏壇があったじゃあないか。亡くなったばあさんが名残惜しくなって、家に来たんじゃないのかね」
あんた、普段はオカルト関係のこと馬鹿にしているのに、今日に限ってなんでそんなこと言うのよ。
私は明日もひとりなのよ。
そう訴えると、夫は「そんなこと言ってもしょうがないじゃないか」とでも言うような顔でニヤリと笑いました。