「温泉でも行こうなんていつも話してる〜 落ち着いたら〜」
夫が脱衣所で鼻歌を歌い盆休みを満喫していると、妻が勢いよく割り込んできた。
「セカンドストリートに行きたい！」
鼻歌に水をさされ戸惑う夫は戸惑いを隠さず、反問した。
「いやあ。せっかくＨジャングルの歌を歌っててさあ、『仲間で〜』を『家族で〜』に替えて歌うところだったんだけど。予約してないからいきなり温泉旅館ってわけにもいかないけどさあ、それにしても、いきなり古着屋だなんて、正反対すぎるぜ。お盆気分が吹き飛んじゃうぜ」
妻は言った。
「お盆休みだってことは秋が近いってこと。秋が近いってことは秋服のニーズが高まるってこと。つまり、この季節は秋服の査定が良くなるし、春に売れなかった秋服がお正月も売れるかもしれないってこと」
夫ははっとした。
日本が金メダルを取りまくっても自分にはまったく関係ないってこと。
高校球児が熱中症にもならず白球を追いかけても自分にはまったく関係ないってこと。
岸田首相が退陣宣言したからって、景気が良くなるなんて話には展開しないってこと。
つまり、盆休みと暑さにやられて、自分自身が現実を直視しない傾向にあったってこと。
さらに言えば、「WOW WAR TONIGHT」を歌詞世界が身に染みる年齢に差し掛かって、陽気に鼻歌かましたはいいが、自分は「時にはムーヴメントを起こせない側」になりつつあるってこと。
夫は何も気付いていなかった気付き、己を恥じた。
なんなら妻は一緒に替え歌を歌ってくれるかな、と内心期待していた自分を恥じた。
夫は力強く宣言した。
「行き先は決まった！セカンドストリートだ！時には起こせよアチーヴメントだよ！行動に常に必要なのはアグリーメントとアーギュメントだよ！」
