【男親の真剣】子どもとの神経衰弱は勝つべきか負けるべきか【女親のテキトー】

 

休日の昼下がり、夫とむすこがトランプの神経衰弱を始めた。

 

しばらくすると、むすこがなぜか大泣きしている。

 

事態に驚いた妻はふたりに聞き取りをした。

 

どうやら、夫が2連勝したらしい。

 

むすこは「パパが、パパが、パパばっかり…」としか言わない。

 

夫の供述では、「いつものジジ抜きかと思っていたら、神経衰弱がしたいと言うんだよ。頭が疲れるから気が乗らなかったんだけど、やるしかないじゃん。で、やってみたら、脳みそが吸い取られるような感覚なのよ。昔、お盆や年末年始に親戚が集まって、トランプしてたら、にぎやかし役のおっさんが『神経衰弱は子どもが強いなあああ~』とか言うじゃん。子どものころは『は? なんや、このおっさん、うっとうしいな』と思ってたわけよ。でも、言わなかったよ、お年玉ももらっているし。今日はね、あのおっさんの気持ちが分かったのよ。つまり、『これ、まじめにやらんと負けるな』と思ったから、まじめにやったら、2連勝してしまったのよ」ということらしい。

 

妻は「え、私も数日前、神経衰弱したけど、むすこが勝ったよ。スマホを片手にやったんだけど、いい勝負ができたよ」と話した。

 

夫は「え!」と目を丸め、内心の葛藤を説明した。

 

「そこが男親と女親の違いだよ。神経衰弱を始めた時は、脳みそがスポンジになりそうだから、負けようと思ったよ。せっかくの休日になんで脳みそをスポンジにしなきゃなんないの、ってね。ぼくの休日はなんなんだ、ってね。でもね、男親にとって永遠に手強い存在でいないといけないのではないかって思い直したのよ」

 

妻は首をかしげ、「なんでそんなに真面目に考えるのよ。どっちでもいいじゃん。『手強い親』って、あんた、昭和じゃないんだからさあ」とあきれるように話した。

 

夫は「え!神経衰弱というゲームと、男親と息子の関係に真剣に向き合った方が、スマホ片手にやってたやつに問題点を指摘されるって、これは一体全体なんなの!」と頭を抱えた。

 

そして、思い直すように「でも、どっちと遊んだ方が息子の満足度が高いかって言ったら、あなたと遊んだ時の方なのよね」とため息をついた。

 

妻は夫に「まあ、真剣勝負もテキトー勝負もどっちもあってもいいんじゃないの。なんてったて令和だからさあ。男親が神経衰弱で負けたからって、威厳失墜って時代でもないよ」と声を掛けた。

 

妻は続いて、むすこの肩を抱き、「今日みたいに負けたら泣くんだったらママはトランプはしないからね。そんな人とゲームしたくないもん」と言い聞かせた。

 

むすこは涙も鼻水も止まらない。

 

妻は「いいよ、もう。元気を出すのだったら、もう1回、YOUTUBEを見ていいよ。今日は特別だからね」と頭をなでると、むすこは何事もなかったかのように泣き止み、パソコンデスクに歩いていった。

 

夫は妻子のやり取りを見つめながら、「今夜もむすこは『ぼくは誰と寝ると思いますか? 答えはママで~す!』と言うのだろうな」とため息をついた。