【オトナブルー?】町中華で遭遇した学生グループがイキりなのかコミュ障なのか分からず不気味だった話【オールドボーイズクラブ?】

古くから「男は度胸、女は愛嬌」なんて言い方がされるが、男の「度胸」は時として周囲の迷惑になることがある。

 

ただ、「度胸」と捉えていたものが、「度胸」ではないとなると、「困惑」以外の何物でもなくなる。

 

今回は「町中華」で夫が体験した事案だ。

 

その店は、ドアを開けると、奥に延びるように10席前後のカウンター席があり、通路を挟み右側にテーブル席が4つほどあるというレイアウト。厨房はカウンター席の左側に位置し、比較的小規模な町中華だ。

 

夫が入店したのは昼時。割と混雑していて、入口に近いカウンター席を案内された。

 

問題の事案は、注文した日替わりランチが配膳され、から揚げに箸をつけようとしたタイミングで始まった。

 

「おう、誰か充電できるやつ、いるか?」

 

声の主は、テーブル席で食事を終えた5人前後の学生グループのメンバーのリーダー格らしき男だった。支払いのため立ち上がり、入口近くにあるレジに到着するや否や、リーダー格が仲間に声を掛けたのだ。

 

その店は現金のほかに、QRコード決済での支払いもできる。リーダー格はスマホで決済したいが、電池切れでもしていて、仲間の誰かがモバイルバッテリーを持っていないかどうか尋ねたのだろう。

 

夫はそう想像したが、リーダー格の仲間たちの反応は予想外だった。誰も積極的に応じる気配がないのだ。

 

店は狭く、夫の背中は学生グループに接触しそうな位置にある。そもそも、背中に他人の存在を感じながら食事するのは気持ちの良いものではない。

 

加えて、リーダー格は大柄で、毛先をねじりパーマをかけたような髪型。ほかのメンバーも総じてエグザイルの練習生のような風体。最近の若者としては一般的なファッションかもしれないが、グループ内で支払いをどうするか意思疎通が進んでいる様子は伺えず、得体の知れなさは否めない。

 

店内のBGMが変わり、奇遇にも山崎まさよしの「中華料理」が始まった。

 

何も言わずに 気持ち通じ合えたら♩

たぶん素晴らしいだろう♩

 

歌詞と現実がなんとなくリンクしてしまう。

 

学生グループは相変わらず、全員で突っ立ったまま。練習生たちが『おれのスマホで払うわ』とか『現金で払おう』とか言うわけでもない。不気味な時間が流れる。

 

リーダー格と練習生に悪びれる様子はない。もとを正せば、自分が食べた分は自分で払えばいい。あるいは、仮にリーダー格がおごる話がついているのだとすれば、ほかの練習生は外で待てばいい。しかし、そういう素振りは皆無である。

 

周囲に迷惑を掛けている自覚を一切感じさせないリーダー格と練習生たち。BGMは「新しい学校のリーダーズ」の「オトナブルー」に変わり、夫の日替わり定食も残り少なくなってきた。

 

わかっている ほしいんでしょ?

 

やはり歌詞がなんとなく目の前の現実とリンクしてしまう。

 

練習生たちの支払いが終わる前に食べ終わってしまったら、狭い通路は占拠されているのに、どうやってレジまで行くというのだ。

 

毛先をねじったり、エグザイル練習生風にしたりしているからといって、ヤンキー確定、「おっさん、なに因縁つけとんねん」な展開確定、ってわけではない。「東京生まれ、ヒップホップ育ち」確定でもない。そういう時代ではないのは分かっている。

 

ただ、「おれたちにはおれたちの払い方があるけえ」とでも言いたげなイキり倒した感じがやはり気持ち悪い。(実際はほとんどやり取りをしていないのが、却って不気味なのであるが)

 

夫は背が高く、人相が悪く、目付きも鋭い方だ。ただ、「戦国時代に生まれなくて良かった」が持論の自称「文化系省エネ派」。支払いに伴い勃発するかも知れないトラブルをどうやって回避するか頭をフル回転させていると、奥の方のカウンター席からスーツ姿の勤め人風の男が立ち上がった。

 

「おう、ニイちゃんたち、ちょっとどいてくれるかあ~」

 

勤め人は声を低く響かせながら、練習生たちを腕で押しのけるの勢いで、狭い通路をかき分け、レジに向かった。

 

夫は通路を広げるため、椅子を少しずらした。その瞬間に様子を伺った限りでは、練習生たちの反応は薄く、「これぞ、馬の耳に念仏」というような、つかみどころのないものだった。

 

「すいません」と言うわけでもない。「おう、おっさん、おれが先に払うんじゃ」と言うわけでもない。「死んだ魚のような目」というと実態とズレるのだが、状況を理解できていない表情だった。

 

イキっていたわけではないのか?

 

ただのコミュ障なのか?

 

青い蕾のまま 大人振る

あなたの前で また大人振る

 

ヤンキー振ってた、ヒップホップ振ってた、無頼漢振ってただけなのか?

 

夫は訳が分からなくなった。

 

「迷惑」というより「困惑」の色が濃くなった。とりあえず、残りの日替わりランチを平らげた。

 

BGMが何に切り替わったのかは憶えていない。ただ、脳内に響いていたのはベートーヴェンの「運命」だった。

 

「ジャジャジャジャーン」のモチーフがひたすら繰り返された。

 

あ、「運命」はそういう曲だ、と少し冷静になった。

 

冷静になると、思考の寄る辺が欲しくなり、スマホで検索した。

 

オールドボーイズクラブ」というフレーズが気になった。

 

www.tokyo-np.co.jp

 

学校を卒業した男子を意味する「old boy(OB)」から派生した「old boys club」や「old boys' network」が元の英語で、学閥主義的な集団や人間関係のこと。閉鎖的な男性中心社会の形容にも使われる。

 

「閉鎖的な」。リーダー格とエグザイル練習生たちにぴったりな形容詞はこれだろうか。

 

慣れない概念と練習生たちの関わりをあれこれ考えていると、町中華のスタッフはお昼休憩に入ろうとしていた。

 

振り返ると、練習生たちは店を後にしていた。

 

夫は店員のみなさんに迷惑はかけまいと、そそくさと会計し、店を出た。