まだ歩けない子どもとの旅行で必需品と言えばベビーカーだ。
と思っていた。
旅先では何かと歩く距離が長くなりがちだし、抱っこや抱っこひもだけではどうしてもパパやママの体力の体力を奪ってしまう。座っているだけで、見たことない景色が目まぐるしく変わり、疲れたら適度な揺れでそのまま眠り込める。
ベビーカーさえあれば1歳児との旅行は9割成功したも同然だ。
我が家はそう思っていた。
今回は、それが思い込みでしかなかったことを門司港レトロで痛感した記録だ。
門司港レトロにはマイカーで入り、旧門司港ホテル(プレミアホテル門司港)にチェックインした。
周辺を散策しながら、夕食までの時間つぶしも兼ね、「門司港地ビール工房」を訪ね、一杯ひっかけた。
妻は「ヴァイツェン」、黒ビール好きの夫は「ペールエール」。チーズをかじりながら、「日本なのに外国みたいだね。旅情を感じるね」「その『旅情を感じる』って言い回しは辞書的に正しいのかね。ま、『旅情を感じる』と言いたいと思い、その通りに言ったのなら、旅先での心情の表現としては満点だと思うけどね」なんて語り合った。
むすめはベビーカーに行儀よく収まり、明治の「アンパンマンジュース」をストローでチュッチュッやっている。
ふと窓を見ると、関門海峡をバックに景色はどんどんオレンジ色に染まっていく。
「これが旅でなくして何が旅なのだ」
そんなクサいフレーズは工房内の誰も言っていない。なのに、誰かが言った気がしたのだ。
夫が不意に「クッサいこと言いやがって」と言った。
妻は「何が?誰が言ったの?」と首をかしげたものの、それ以上の追及はしない。
心の声が言ったのだ。「これが旅でなくして何が旅なのだ」と。
夕食はフグ。関門海峡と言えばフグ。夕食までの時間の使い方としては満点だ。
「今回の旅行は計画通りだ」。ビール工房を出た妻と夫はフグ店までの散策を楽しみながら、言葉に出さないまでも、同じ思いでいた。
事態が一変したのは、フグ店だった。
(後編に続く↓)